【世相12】スーパーコンピュータとスティーブ・ジョブスとエンジニア
1.技術と政治
少し前の話になるけれど日本製のスーパーコンピューター「京」が性能世界一になった。
2009年11月13日の事業仕分けによって、蓮舫議員によって世界1ではなく「2番ではだめなのか」という発言がTVで放送されていたことが思い起こされる。
引用(富士通株式会社より)
「次世代スーパーコンピュータ」
解決が難しい様々な課題に直面する日本、そして世界。私たちに求められている課題は、これらを先送りすることなく、すみやかに解決することです。そのためには世界中の英知を結集し、様々な分野において最先端の研究を加速していかなければなりません。そのカギを握るのが、スーパーコンピュータです。富士通は、スーパーコンピュータの開発を通じて、人と地球の豊かな未来の実現に挑戦しています。
ウィキぺディアによれば、蓮舫議員の発言の裏には色々な世界情勢の中でコストのかかりすぎるものを無理して作っても無駄ではないのかという意味が込められていたように示されている。
また、私自身は「京」の開発に携わったF社関連企業に在籍した事もあり、今でも一応エンジニアなので、議員と逆側の風景もよく見える。F社の歴代社長は、技術畑の方々ばかりと記憶している(現在は不明)。その社風は技術力によって他社と差別化してきた文化を強く持ち、私が就職活動していた25年前は、そんな事を推進する事から火の玉軍団(エンジニア軍団として)と新聞等に書かれていた。
確かに事業仕分け側にも一理あるし、NO1を主張する方にもその理由は同じくらいある。
だから、どちらかに軍配を上げるなんてここではしない。
日本において、技術出身の著名人と言えば、松下幸之助氏,本田総一郎氏,井深大氏や、現在では孫正義氏など大物が多い。エンジニアは、新しい製品の企画をし、世に出すことによって、大きなイノベーションを起こしてきた。蛇足だが、インターネットは気づかないうちに世の中の形を大きく変えてきた。
我が国は、敗戦後、資源の乏しい国家として加工産業(材料を輸入し他国へ輸出)による外貨獲得を進めてきたし、成功をおさめている。今日では、韓国や中国も同じ戦略によって豊かになろうとしている。
そして、エンジニアは、良い製品を作ることで国を豊にしようと切磋琢磨してきたし、その事は先述した著名な方々の生きてきた歴史を見れば分かるのではないだろうか?
エンジニア自身に「未来を切り拓く」という意識が根強くあった。それは、求められるものを作れなければ負けという現実があった。
2.純粋に社会に生きるエンジニア精神と金融界
他者(他社)の真似できないような圧倒的技術力を追求する事は、成功のための1つの有効な方法であったろうし、それはF社の社風の中にも、私の在籍した12,3年前に大いに残っていた。右肩上がりの豊な時代だった為もあるだろうが、社会のため人のために良い製品を作るという事が、キチンと正しい時代だった。
簡単に語ってしまったが、そんなエンジニアの心は厳しい競走を生み、開発競走によってかなりハードな仕事に現場は追い込まれていった。体を壊すものも少なくなかったと記憶している。
そこで、事業仕分けの「2番」発言である。火の玉軍団と呼ばれたF社は、先輩方の作り上げてきた技術屋という文化を愚弄されたように感じたのではなかろうか?人気取りの政治に、技術力を世界1にして示さなければと形振りかまわず取り組んだ事(会社の方針があったであろう事)は容易に想像がつく(当然ですが私個人の意見です)。
日本モデルは先述の通り他国にも1つの戦略として取り込まれ進められている事は確実だろう。
すばらしい技術力は、短期的な損得を重視する金融系の発想に相いれない。
本当に勝負しなければならない技術開発は、長い取り組みが必要だろうし、単年度の決算で結果を決めてしまうようなものではない。
現代の世界的な金融不安の中で、今までと同じ金融重視の戦略(投機的、株価重視)を続ける事は何も考えてないということなのではないのだろうか?長期的に育くんで良い製品に到達させる文化(良い結果を生む)を金融にも上手に反映させるべきと考える。
昨今の金融不安は、目先の短期決戦に終始し、長い目で、誠実に働き誠実に生きていれば報われるという事を否定した結果なのではなかろうか?
徹底的に金融の世界と技術の世界に違いがある。
確かにどちらも成功を目指しているのだろうが、金融はわけもわからない世界情勢に左右されるけれど、技術系はトレンドに左右されるものの、自分たちの技術がたよりであり、政治力みたいなものをあてにできない。本気で世の中の必要とするものを目指し、他社を寄せ付けないだけのものを作る事が目的で、それができたら勝利するし下剋上もありうる。
結局、金融は外界との関係性を重視するけれど、技術は己頼りなのである。それは、純粋な芸術家に近い部分を持つのである。
己自身に勝因を求める。
3.スティーブ・ジョブス、そして、当たり前の世界へ
自身の夢、その実現に、自分の才能で挑戦したスティーブ・ジョブスは、哲学めいた発言も多い。その純粋な目的のために、外界を敵にしても自分の理想に近づこうと本当に考えたのだと思うし、そういう視点でものを考えた事がエンジニアとして「必要なものまたはあれば楽しいもの」を提供(追求)できたのだと思う。アップルに復帰してからの目ざましい同社の発展は1人の才能によって大きく前進した事は間違いない。哲学者的な発想を持つほど、他者の情勢判断という目先の常識(計算)と戦ったのだと思われる。
今、世界の金融はガタガタである。規模や駆け引き、そして政治的な力によって今まで繰り広げられた世界。その世界がガタガタになっている。世界のバランスが崩れているのは、色々な要素がある。結局、その原因は人間の本性に近いところにあると私は思う。
勝つという事は生きるために当然大切である。
けれど、勝つ目的が何か?周囲をなぎ倒すだけの勝利に何があるのか?何にかを裏切る必要のある勝利なのか?大勢の涙を考えないでただ勝てばいいのか?
結局、勝って何がしたいのか?そして、負けたことを受け入れられるくらいの大きな取り組みなのか?
そして、戦いを放棄した者には、他者に人生を委託した自覚があるのか?
そんな風に、落ちぶれたエンジニアの私は考えてしまいます。
何かバブルみたいに膨らんでしまった人類の何かが、今の混沌を招いている。
現在の情勢に、どこにも未来の答えは見当たらない。
だから、本来の目的に立ち戻って未来に向けて進むしかない。
本当に、バブルでなく、過激でなく、地味な正しさを探さなければ。
そして、その方向へ進まなければならない。
そして、これ以上、正論を述べても、語るだけでは何も始まりもしない。
とにかく、自身で何かを選んで、駒を進めようではないか。
2011.11.27 sorry